CO2排出量削減を目指す世界的なトレンドや、技術革新により、
ここ数年で大きく進化し、実用化している電気自動車(EV)。
その開発現場から生まれる数々の成果は、
私たちの生活をより豊かに変えてくれる可能性が詰まっているのです。
2014年から国際自動車連盟(FIA)がスタートさせた
新規格のレースである「フォーミュラE」のドライバーであり、
F-1経験も豊富なレーシングドライバーの山本左近さんに、
未来につながるEVテクノロジーについて語っていただきました。

 『フォーミュラE』とはバッテリーやモーターなどすべての駆動を電気でまかなうフォーミュラカーによるレースのことです。記念すべきファーストシーズン、その開幕戦は2014年9月、北京で開催、その後、世界10都市で11大会が開催されました。セカンドシーズンも2015年10月からスタートしています。
 僕が一番驚いたのはレース開催地が全戦市街地であり、公道レースであること。一般的にサーキット場というのは都市部よりは郊外にあることが多い。それは、ガソリンエンジンを使うF-1のようなレースカーはエンジン音が非常に大きいといったこともあり、都市での開催は現実的ではないわけです。たしかにモナコでは市街地で開催されていますが、これは伝統的なレースでもあり、きわめて特別な例です。実はロンドンではF-1を市街地で開催しようと何度か話題になっていますが、実現にいたっていないのは、こんな理由があるからです。こうした経緯を知っていたので、フォーミュラEが第1回大会から都市部開催になったのは驚きでした。
 市街地で開催できた理由は、やはりEV(電気自動車)は静かで排気ガスがないからでしょう。またフォーミュラEでは、レース運営におけるすべての電気をクリーンエネルギーでまかなうという決まりもあります。エコで未来的な観点から都市部でも開催が受け入れられたのだと思います。
 僕が初めてフォーミュラEに参戦し、EVに乗ったときに驚いたのは、これまでエンジン音にかき消されていた、タイヤのきしむ音、ギアが入る音、ブレーキの音、縁石に乗った音など、運転にまつわるさまざまな音が聞こえることでした。しかも、ゆっくり走行している時は、ファンの歓声までもが聞こえてきます。エンジン音が静かになったことで、ファンとの距離もぐっと縮まった気がしました。

 フォーミュラEではレース中に使えるエネルギー(バッテリーの充電量)があらかじめ決められています。最高速度(時速220~230km)で走り続けると完走することができない量で、たとえて言うなら、レースではバッテリーのフル充電を100として90の消費量で完走することがルール。決勝レースは最大で60分、距離でいうと約100km程度。スタートからフィニッシュまで最低1回のピットストップが義務づけられており、マシンを乗り換える必要があります。また決勝レース中は最大出力を使うことはできず、“セーブモード”で走行します。しかしそれでも、完走するには“電費”を考えなければいけません。ですからバッテリーを消費する“アクセルを踏む”行為に対してとても慎重になるのです。もしルールで定められた電気消費量よりも多く使ってしまった場合は失格になってしまいます。
 運転の仕方も、ガソリンエンジンのそれとは大きく異なり、たとえばガソリンエンジンの場合、レース中は常にアクセルかブレーキのどちらかを踏んでいますが、フォーミュラEではアクセルを踏み込んで獲得したスピードを活用する“惰性”の使い方がポイントになります。これをリフト&コースト(アクセルを離して、惰性で走る)といいます。このテクニックをうまく使うことで、バッテリーをセーブすることができます。ただしレースですから、同時にタイムロスも少なくしなくてはいけません。アクセルの踏み込み方と抜き方のバランス、そして、惰性の使い方など、F-1以上に繊細で、頭を使う運転を要求されるんです。
 レース中は追い越しが可能にみえる場面でも、安易に電気を使用することはできませんし、それにレースの序盤で順位が後方でも、バッテリーを温存していれば最後に逆転することも可能です。一般的なレースとは違った展開になっていて、テレビ中継では各車のバッテリー量が表示されるので、それを見ながらレース展開を予想するのも面白いと思います。

 EVはガソリン自動車が世に出た頃にはすでに発明されていました。しかし、当時はガソリンエンジンのほうが効率的に長距離を走行できることから、EVは消えていきました。再び注目されるようになったのは、技術革新があったからこそ。小さくて軽量なリチウムイオン電池のようなバッテリーが開発され、急速充電の技術が進化し、量産型のEVが製品化されました。現在、小型軽量化が進んだバッテリー技術は自動車のみならず電動アシスト自転車にも活かされています。今後、フォーミュラEで培われた技術が、さまざまな乗り物で応用されていく日は遠くないと思います。
 フォーミュラEのサードシーズン(2016‐2017年)から、自動運転のロボレースが開催されることになっています。これは画像解析やセンサーといった技術を使い、周囲の状況を判断しながら走るAI(人工知能)によるレースですが、私はこうしたAI技術もわれわれの生活に活かされるのではないか、と考えています。
 特に医療や介護といった分野にとって、それは魅力的な技術です。たとえば車椅子にAI機能が搭載されれば、目的地を設定するだけで、ひとりで好きな場所に行けるようになります。さらに長寿命で軽量の充電池があれば、外出の自由度はさらにアップすることでしょう。現在、少子高齢化への対応が大きな社会課題となっていますが、こうした先端技術がより多くの人たちが人生を謳歌できる新しい社会へのイノベーションにつながっていく一助となればと思います。フォーミュラEが切り拓こうとしている世界は、モータースポーツの分野を超え、われわれの生活を劇的に変える可能性を秘めた技術のショーケースでもあるのです。

 もうひとつ、フォーミュラEで期待しているのは回生エネルギー技術の進歩。ガソリンは使えば使っただけ無くなりますが電気の面白いところは、動いているときと逆の作用が生まれたとき、これまでは捨てられていたエネルギーを回収して再利用することができる点。これを回生エネルギーといいます。簡単に言えば減速時のエネルギーを回収して、電気として蓄えることができるのです。現状では回収できるエネルギー量は多くありませんが、効率が上がれば、電気を使いながら、電気を創り出せる新たな仕組みが確立されるでしょう。また現在、フォーミュラEではバッテリー規格は統一されていますが、いずれ開発も自由化されるはずです。どのチームも小さく軽量なバッテリーでレースをしたいので、そこに大きな技術革新が生まれると予想できます。
 フォーミュラEではクルマとしてのハードの部分とドライビングテクニックなどのソフトの部分、双方の向上が求められています。ハードの部分で言えば、バッテリーやモーターの性能だけでなく、車両の軽量化やタイヤの性能向上などもエネルギー活用の効率化に繋がる技術です。そしてこれらはすべて省エネ技術の発展につながっていきます。省エネとは使うエネルギー量を抑えることだけではなく、創り出すことも含めて捉えることだと考えています。特に電気では“使用する”と“創る”を同時に考えることができる特性を持ったエネルギーとして魅力を感じています。
 これからの社会のあり方で大切なのはサステナビリティ(持続可能性)とよく言われます。もちろん限りあるものを大切に使うことも大事ですが、それ以上にイノベーティブ(革新的)であることも必要だと思っています。本質を見極めながら自由な発想を呼び込むことが、本当に持続可能な未来を創っていく。イノベーティブにサステナビリティを追求できるからこそ、フォーミュラEは面白い。そこから生まれる技術が活かされる未来にワクワクしているんです。

山本 左近(やまもと さこん)

レーシングドライバー
医療法人/社会福祉法人 さわらび会 統括本部長
認定NPO法人インド福祉村協会 理事長

1982年、愛知県生まれ。
1994年、鈴鹿カートレーシングスクールに入校。
2年後にベルギーで開催されたカート・ジュニアワールドカップに出場を果たす。
2000年、鈴鹿フォーミュラレーシングスクールに入校。
翌年、全日本F3選手権でシリーズランキング4位の成績を押さえ、2002年から単身渡欧。
2006年に日本人最年少(当時)F1ドライバーとしてデビューを果たす。
2015年フォーミュラEの第9戦、第10戦(ロンドン開催)にアムリン・アグリ・フォーミュラEチームより参戦。
レーシングドライバーとしてのみならず、講演活動、レース解説、また『SUPER GT+』(テレビ東京系)に解説者・レポーターとしてレギュラー出演中。

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山本左近公式サイト

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